「猪木啓介」と聞くと、多くのプロレスファンは「アントン・ハイセル」を連想するし、新日本プロレスの資金が投入され、団体崩壊寸前まで追い込まれた「負の歴史」の象徴と思っているプロレスファンも多いはず。
だから、「ホラ話が多いのでは」と、あまり期待せずに読んでみたが… 面白かった。
今のところ2025年のベストと言ってもいい。
猪木啓介氏は、猪木家の中では稀有なほど「一般人の感覚」を持った、まともな人だった。
彼は、プロレス界の神格化された「猪木」ではなく、あくまで身内から見た、どうしようもないけれど愛すべき「兄貴」を語っている。
この本の魅力であり、アントニオ猪木という男を表現する象徴的な一文を引用。
かつて、兄貴と同じマンションに住んでいたミュージシャンのナベサダ(渡辺貞夫)さんも言っていた。 「あんたの兄さんは余計なことをせず、プロレスだけやればいいのにねえ」
みんながそう思っている。だが、プロレスだけで終われない。わざわざ行く必要もないのに、横浜からブラジルに移住してしまった兄貴には、意地でも安住を嫌う猪木家のDNAがしっかりと刷り込まれているのだ。
誰もが「プロレスだけやればいい」と思っていたが、それができないのが「アントニオ猪木」であり、それが魅力なのだ。
これまで散々語られてきた、タイガー・ジェット・シンによる「新宿伊勢丹襲撃事件」や、ハルク・ホーガン戦における「舌出し失神事件」などについても、多くの人が好き勝手なことを語ってきたが、この本で明かされていることが、真実に近いように思うし、「アントン・ハイセル」の渦中にいた弟の視点というのは貴重な証言だと思う。
また、4人目の奥さんである、田鶴子さんのことはよく知らなかったというか、あまり良い話も聞かないし、興味もなかったのだが、(悪い意味で)そういう人だったのね…ということがわかった。
しかし、田鶴子さんの言い分はもうわからないので、本当に何があったのか、真実はわからない。
物事は一方向だけから見ていてはダメだ。両方の言い分を聞かなければと思う。
賛否や真偽はさておき、本書を読むことで、プロレスラー・アントニオ猪木を形作った「猪木家のDNA」を感じることができると思う。
良書。
目次
1章 横浜
2章 ブラジル
3章 新日本プロレス
4章 金曜8時
5章 アントン・ハイセル
6章 政界
7章 修羅
8章 大団円